東京高等裁判所 昭和35年(う)948号 判決 1960年9月30日
被告人 鄭哲洙
主文
原判決中被告人に関する部分を破棄する。
被告人を懲役八月に処する。
原審の訴訟費用は、全部被告人と原審相被告人白川文夫、同下村俊一との連帯負担とし、当審の訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、末尾に添えた各書面記載のとおりであつて、当裁判所は、主任弁護人加藤隆久の請求により事実の取調として、白川文夫及び下村俊一の両名を、それぞれ証上人として尋問した、これら各趣意に対し、次のとおり判断する。
控訴趣意第一点及び控訴趣意第一点に対する補充について
各所論に鑑み、原判決を調査すると、原判決の罪となるべき事実第一中には、被告人は、原審相被告人白川文夫、同下村俊一と共謀の上、昭和三十四年八月三十日午前一時頃川崎市南町九十八番地の金載洙方附近の路上において同人に対し、こもごも被告人らの自動車に同乗することを求め、同人をして不承不承右自動車に同乗させたのち、直ちに発車疾走して同所から東京都品川区豊町六丁目二百八番地の被告人方屋内まで同人を連行し、同人をして、被告人らの同行から脱出することを著しく困難ならしめて困惑畏怖させ、よつて、同日午前一時過頃からおよそ三十分位の間右自動車内及び被告人方に止まることを余儀なくさせ、もつて同人を不法に監禁した旨の記載があるのであるが、この記載だけでは、刑法二百二十条第一項所定の犯罪構成要件たる、継続して不法に人の行動の自由を拘束し、一定の場所から脱出できないようにさせたという事実の判示として欠けるところがあることは、まことに所論のとおりであるといわなければならない。しかるに、原判決は、右記載事実が右法条に該当するとして被告人を処断したのであつて、刑事訴訟法第三百七十八条第四号にいわゆる判決に理由を附しない違法があるから、爾余の各控訴の趣意について逐一判断するまでもなく、原判決は、破棄を免れない。
よつて、同法第三百九十七条第一項、第三百七十八条第四号によつて原判決を破棄することとし、本件は、訴訟記録並びに原審及び当審において取り調べた証拠によつて直ちに判決することができるものと認められるので、同法第四百条但書によつて、本件について、更に判決することとする。
当裁判所が認定した被告人の犯罪事実前科に関する事実及び証拠の標目並びに法令の適用は、犯罪事実中第一を、被告人は原審相被告人白川文夫、同下村俊一の両名とともに、翌三十日午前一時頃、右金載洙方附近の路上において、金載洙を被告人らの自動車に連れ込み、他に連行した上、同人をして被告人らに謝罪させることを謀り、同所で秋田こと秋成伯及び新本敏夫こと朴潤来らと雑談中の金載洙に対し、右白川が下車して、「話があるから一緒に車に乗つてくれ」と申し向けて乗車同行方を求めたところ、金が「話ならここでもよいではないか」といつて拒否したので、右下村は、下車した上、被告人も乗車したまま、いずれも右白川同様金に対し、乗車同行方を求めたが、金に乗車する気配がないので、ここに被告人及び白川、下村の両名は、金を強いて自動車に乗車させて他に連行することを共謀し、右両名において金の左右からその身体をはさむようにし、白川が「お前の体をもらつちやう」というと同時に、右両名が金の両側からその腕を掴んで無理矢理に同人を被告人らの自動車の後部座席に押し込み、同車内においても右両名が金の両側に座を占めて同人の車内からの脱出を防ぎつつ、直ちに自動車を発車、疾走させ、同車内における被告人の発案で、被告人らにおいて金を被告人方へ連行することを打ち合せた上、自動車が東京都品川区豊町六丁目二百八番地の被告人方前に至るや金を下車せしめ、同人の逃走を防止するためその前方を被告人が歩き、右白川や下村が金の左右をはさむようにして被告人方屋内まで同人を連行し、よつて、その間約三十分にわたり同人をして被告人の周囲から脱出することを著しく困難ならしめて同人を不法に監禁し、と改め、法令適用の部に、刑事訴訟法第百八十二条第一項本文を追加して当審の訴訟費用も全部被告人に負担させることとするほか、原判決中被告人に関する部分と同一であるから、これを引用することとする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 下村三郎 高野重秋 真野英一)